CancerWith Blog

オンラインがん相談サービス CancerWith

がん治療・生活の不安を専門家(看護師、社労士、キャリアカウンセラー)に相談できます。

手術後のセックスはどうする? 宋美玄先生と麻美ゆまさんに聞く、がん患者の恋愛と結婚と性

f:id:cancerwith:20220322182737j:plain
こんにちは。取締役COOの二宮です。

オンラインがん相談サービスCancerWithでは、AYA Week 2022に合わせ、全3回に渡るオンライントーク #AYAPARTY を開催しました。

最終回、3月11日(金)にTwitterスペースで実施した「恋愛と結婚と性。#患者の本音」では、産婦人科医の宋美玄先生とタレントで境界性悪性卵巣腫瘍体験者の麻美ゆまさんをゲストに迎え、がん患者の恋愛と結婚と性について語り合いました。トークテーマは、わたし自身が抱えている悩みやCancerWithに実際に寄せられた相談、そして当日ハッシュタグに寄せられた投稿を中心に構成。その内容の一部をご紹介します。

パートナーに見せるのが怖い。手術跡との向き合い方

二宮みさき(以下、二宮) 本日は、宋美玄先生と麻美ゆまさんに来ていただいて、がん患者の皆さんの「恋愛と結婚と性」というテーマでぶっちゃけトークをしようと思っています。早速なんですが、実際にCancerWithに寄せられた相談からひとつ。がんによる手術跡が気になって、パートナーに体を見せられなくなってしまったというお悩みがありました。

二宮みさき
二宮みさき@chira_rhythm55
CancerWithを運営する株式会社ZINE 取締役COO
2015年に乳がんに罹患、現在もホルモン療法を継続中

麻美ゆま(以下、麻美) めちゃめちゃわかります……。手術した直後って、初めての体験なので自分でも受け入れられないし、受け入れられない自分自身に対して苛立つことも。わたしは手術後半年から1年くらいかけて、傷跡が馴染んできたことで不安が薄れました。

手術前は、跡が残ることがすごく怖い時期がありました。入院中に先輩の患者さんが、明るく「見てみて! こんな感じよ」と手術前にご自身の傷を見せてくれたんです。その方の元気であっけらかんとした雰囲気に背中を押されました。

麻美ゆま
麻美ゆま@asami_yuma
セクシータレントとしてデビュー。26歳で境界性悪性卵巣腫瘍が見つかり、子宮と卵巣の全摘出と抗がん剤治療を経験。現在は歌手・タレントとして活動

宋美玄(以下、宋) 経過が良いと、それくらいで赤っぽい傷は落ち着いてくることが多いですね。手術跡は本当に個人差があって、体質でケロイドっぽくなってしまう場合もある。婦人科がんだとお腹の上の方まで一直線の傷になったり、あるいは背中に及ぶことも。乳がんだと、乳房を残すのか、残す場合もどれくらい残すのかということもそれぞれです。

がんでなくても、生まれてすぐや幼いときに大きな手術を受けると、木の幹のように一緒に成長して受け入れられやすいことが多いです。大人になってからの新しい傷の方が気になる方が多いですが、それも年月が経つとだんだん馴染んできます。

宋美玄
宋美玄@mihyonsong
産婦人科専門医、丸の内の森レディースクリニック院長
女医が教える 本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)著者

そもそもパートナー側に聞くと全く気にしていない人が多いですね。セックスって、傷以外でも、どんな方でも悩みやコンプレックスがありますよね。それって相手はあまり気にしていなくて、自分しか気にしてないことが多い。

麻美 ああ、確かに! 自分が考える以上に、意外と相手は気にしていないと思います。

二宮 手術をしていなかったとしても、胸が小さいとか形がおかしいんじゃないかって自分で気にしてしまうことありますね。

もちろん、自分ではすごく気になる。だけど、例えば相手に傷があったらどうか? と考えてみると、気にされない方が多いと思います。でもやっぱり、自分に新しくできた傷を受け入れるのには、それなりの時間が要りますよね。

麻美 本当に人それぞれだと思うんですが、わたしは傷が生々しいところから馴染んできたとき、自分は頑張ったんだなあと思いました。わたしも自信を無くした時期があったけれど「自分が自分を素直に受け入れられる場所や環境づくり」が重要だと思います。例えば、電気を消すとか、そういう小さいところから。

二宮 パートナー側からできることはありますか?

麻美 わからないことは素直に聞いてほしいですよね。痛いのかな? とか。聞いちゃいけないのかなと遠慮するより、ラフに聞く方が良いと思います。話さないとわからないから。

治療で減ってしまった性欲を高める方法

二宮 手術やホルモン治療によって、性欲そのものが減ってしまった場合はどうしたら良いですか?

卵巣を摘出したり、化学療法などで生殖機能が落ちたりすると、ホルモンが全然出なくなることがあります。性欲は男性ホルモンによってコントロールされていますが、出産後も起こる現象として、全く性的な気持ちにならないことがあるのです。

麻美 もし、したいのにできないとしたら、どうしたら良いのでしょう?

いやあ、これは本当に難しくて。性交痛とか、うまく入らない場合の対処は色々あるんですけど。性欲を抑えたいというのと、ないものを湧き上がらせたいというのは、男女ともに難しいです。

よく患者さんが悩まれるのは、自分は全然しなくて良いけれどパートナーが求めてくるから時々応じないとパートナーシップが成立しづらいということですね。

そういう場合は「セクシャルファンタジー」といって、ムラッとくるピンポイントな性的嗜好を自分の脳内で再生する。人間のセックスって、動物のように発情期があるわけではなく、脳が興奮するかどうかなんですよね。なので、脳が興奮するように何かエッチなものをみて気持ちを高ぶらせたり。

麻美 色々と二人で試すのが良いのかなって思いました。簡単ですけど手を繋いでみるとかドラマを見るとか、話し合ってトライして、繋がっていくと良いですよね。

二宮 パートナーに伝えるのが恥ずかしいときは……?

麻美 二人のために一緒によくして行こうよ! という感じで「二人のために」っていう前提で話すと良いと思います。

伝えないとわからないですよね。相手は良かれと思っているので。病気だけでなくて、出産とか更年期とか、節目節目で「わたしの新しい体について説明します」と伝えましょう。

言いにくい場合は、医師をエクスキューズにして「お医者さんがこういっていた」「これは良くないらしい」とか、あるいは 「本を読んだらこう書いてあった」と伝えると言いやすくなると思います。

医師に性生活に関する相談をしても良いの?

体の表面の傷があることで、性行為に直接制限が出ることは少ないと思いますが、例えば、子宮を摘出したりデリケートゾーンの手術をした場合、その後の性生活をフォローする医師がまだまだ少ないです。

お腹を開いて手術をすると体内で癒着が起きる場合があるので、この体位だと良いとか、これは良くないとか。わたしがセックスカウンセリングをしていた際は、絵や人形を用いて説明していました。そういうことを、病院で説明すると良いかなと思っています。

二宮 痛くない体位! なかなか聞きにくい話題ですが、気軽に主治医に聞いて良いものでしょうか?

もちろん聞いても良いです。ただ詳しくない方もいるので、明確な答えがない場合もあります。そういった場合は、セックスセラピストや性について専門にしている医師に、手術所見を持参して聞くと良いでしょう

わたしの知り合いの女性医師の中に、婦人科腫瘍を専門にしていて、現在は患者さんの性生活について課題意識を持って取り組んでいる方がいます。でも今日現在、がんの専門医だと明確な答えはないかもしれないですね。

麻美 実はわたしも実際に主治医の先生に相談しました。ただ、その答えもふわっとしていて……。

性交痛があっても、ゼリーを使った方が良いとか、宋先生のようにこの体位が良いとか言ってくれる先生はなかなかいないですよね。

子宮頸がんだと、手術で膣が短くなることや、放射線で硬くなる場合もあります。セックスをしても問題ないと言われても、患者さんからすると本当にして良いのか?と不安に思うこともあります。

そういった方で、主治医には聞けなかったけど、わたしのところにきた方もいました。相性もあると思いますが、主治医以外の話しやすい医師にお話をしたり、例えばわたしのような産婦人科医が連携しても良いでしょうね。

性別や年齢が一概に大事なわけではないですが、若手の医師でそういった話のできる医師が男女問わず増えると良いなと思います。

二宮 ハッシュタグに「性の話が具体的で参考になってます」という感想も寄せられました。

本当に、がんに限らず、セックスに関する相談をできる場所が少ないし保険もないんですよ。わたしもセックスの本を出していますが、医師の中でもマイノリティです。

女医が教える 本当に気持ちのいいセックス

それでも今は少しずつ増えてきたので、例えば「日本性科学会」のホームページからセックスセラピストを探したり、オンラインカウンセリングを受けることもできます。

子どもができないことを悩んでしまう

二宮 がん治療で子どもが産めなくなる場合があります。いわゆる妊よう性がなくなることですが、それを申し訳なく思ってしまうこともあります。どうやって折り合いをつけると良いでしょう。

麻美 すごくわかります。そこはもう、自分自身のパーソナリティ、個性なんだと思っています。子どもがいてもいなくても楽しい未来はあるし、気にしないようにする、かなあ……。

難しいですよね。がんに限らず、作ろうと思ってもできない場合もあるし。

「子ども = 人生」という価値観で妊よう性を失うと、大きな喪失感やコンプレックスになることがあります。でも、特に今の価値観だと、子どもがいてもいなくても幸せにはなれる。

それからよくある問題として、パートナーは「子どもは望まないから早く治療してほしい」と思っていて、患者さんは「パートナーのために子ども・妊よう性を残したい」というような、お互いを思いやり過ぎている事例もあります。

二宮 パートナーがいる場合は、自分で抱え込み過ぎないで話し合うのが大事ですね。

麻美 二人で話しあっていろんな選択肢を見つけていけると良いなと。養子縁組など、子どもを産まずに迎える方法もありますよね。わたし自身も、申し訳ないって思わずに過ごすようにしてます。

パートナーが病気や治療を理解してくれないときは

二宮 一方で、パートナーが病気を理解してくれないというお悩みもよく聞きます。病気を受け入れてくれなかったり、治療について我関せずみたいな状態だったり。コミュニケーションのコツってありますか?

医師の視点からいうと、診察時に同席してもらうのが良いと思います。一緒に来てくれるだけで患者さんも安心しますし。わたしならカップルで来院されたら、熱を入れてお話しします! あなたの役割はこうですよ、と。

不妊治療なんかもそうですよね。2人で行くことで、当事者としての自分ごととして捉えてくれるはず。それから子育てもそうですが、言わないと伝わらないことがたくさんある。困っていることや、こうしてほしいということを言語化していくのが大事です。

二宮 同席するのは良いですよね。わたしも告知のときから夫と一緒に病院に行ってました。ちなみに、未婚の場合などで病院から同席を断られた場合はどうしたら良いでしょうか。

わたしの病院では患者さんが希望されれば一緒に聞いてもらいますが、病院によっては断られることもあるかもしれませんね。その際は、主治医にパートナーにどう説明すれば良いかを聞いた上で、それを自分の言葉に噛み砕いて伝えるのが良いと思います。

小さな幸せや目標を見つけて、少しずつ自分らしさを取り戻す

二宮 自分に自信が持てず、恋愛になかなか踏み切れないときや、やりたいことができないときの乗り越え方を教えてください。

麻美わたしも病気になってから、結婚できないんじゃないか、幸せになれないんじゃないかと不安になったことがありました。そんなときに、リリー・フランキーさんに人生相談をする機会があったんです。

そこで「それは病気以前に、自身の性格だと思うよ」と言われて、ハッとしました。病気がどうとかではなく、成長できるところがいっぱいある。小さなことでも、自分の目標や成長に目を向けるようになったら、不安がどんどん小さくなりました

二宮 特に治療中は、病気のことばかり気が取られてしまいますよね。

麻美 そうそう。抗がん剤の治療中も、小さい幸せを見つけて、自分にできることから少しずつ。

がんって、もちろん大きなことだけれど、自分がどこまで病気に支配されるかは人による

絶対的な劣等感や負い目を感じる方もいるけど、視野を広げて自信を持って生きている方もたくさんいる。患者さんのコミュニティなどもみて、色んな方を参考にすると良いかもしれません。

麻美 自分なりのタイミングが来ると思うので、焦らずに。わたしも26歳で病気になって先が見えなくなりました。どんなに小さなことでも目標を見つけて、自分らしさを忘れずに、生きていってほしいです。

がんになっただけでも運が悪いというのに、性の悩みがあるなんて医療者として心苦しいです。どうかコンプレックスを抱えないで。医療者として今後も情報発信や啓発活動をしていきます!

がんと診断され治療や生活でお悩みを抱えている方は、CancerWithをご利用ください。

CancerWithを利用する

執筆:二宮みさき/編集:仁田坂淳史(ZINE)

第1回、第2回の様子はこちら

教えて勝俣先生 AYA世代編

男性も女性も! 資生堂さんに聞くがん患者の #アピアランスケア