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「治療する必要のないがんもある」 NATROM先生に聞く、がん検診の副作用と過剰診断の不利益

CancerWithでは、ピンクリボン月間に合わせて記事を公開しました。そこでは、「早期発見」「早期治療」の問題を腫瘍内科医の勝俣範之先生に詳しく伺いました。おかげさまで、SNSを通して多くの方に反応をいただき、患者の皆さまの熱量を感じることができました。

本記事では、以前より「過剰診断」の問題をブログやSNSで積極的に発信されている内科医名取宏(なとろむ)先生にインタビューを実施し、早期発見を訴え続けること、そして過剰診断の問題を深掘ります。

過剰診断って何? 患者にとっての不利益とは

二宮みさき(以下、二宮) 10月に公開した勝俣範之先生のインタビューでも、韓国での甲状腺がんの事例が話題にあがり、日本でも東日本大震災後の福島県で同様の事例があると知りました。

二宮みさき
二宮みさき@chira_rhythm55
CancerWithを運営する株式会社ZINE 取締役COO
2015年に乳がんに罹患、現在もホルモン療法を継続中

名取宏(以下、名取) 過剰診断とは「治療しなくても症状を起こしたり、死亡の原因になったりしない病気を診断すること」です。それにより本来治療する必要はないのに、治療せざるをえなくなる状況が発生します。甲状腺がんは特に過剰診断が起こりやすいんです。

他にも、よく知られているのが乳がんです。乳がんの事例は広く調べられているため、定量的に過剰診断の割合が判明しています。報告によって多少増減はありますが、検診で発見された乳がんのうち、およそ20~30%もの人が過剰診断だと言われています。

過剰診断は肺がんでもありますし、前立腺がんでもあります。胃がんについては、日本と周辺地域でしか検診を行っていないので定量的には分かっていません。しかし、症状のない早期の小さながんを診断、治療介入しているので、そこそこの数の過剰診断が起きていると考えられます。

二宮 患者さんにとって、過剰診断による不利益は、具体的にどういったものがあげられますか。

名取 がんと診断された不安により生じる、心理的な不利益があげられます。さらに、治療することになると、乳がんの場合は乳房切除の可能性もあります。また、抗がん剤治療や放射線治療をやるとなったら、副作用も生じます。そして、生命保険に入りにくくなるといった社会的影響もあるでしょう。それらを全てひっくるめて「過剰診断の害」ということになりますね。

二宮 過剰診断のような「適切でない診断」と「適切な診断」はどうやって区別されるんですか。

名取 それが区別できないんです。過剰診断は誤診とは異なります。見つけた時点ではたしかにがんですし、手術したあとに顕微鏡で細胞を調べてもがんです。治療してしまうので、放置していたら症状が出たのか出なかったのかは、もう分かりません。最後までそれが「過剰診断で害があった」ということは分からないのです。だからこそ、厄介なんです。

個々のケースで過剰診断かどうか調べようとするならば、治療をせずに放置するしかありません。その上で、がんによる症状が出る前に、がん以外の理由でその方が亡くなったら、過剰診断だと確定できます。しかし、特に乳がんはそういうことはできません。見つかった以上は治療するしかないんです。

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名取宏先生(取材は感染症対策を行った上で実施しました)

先ほど、「適切でない診断」という表現を使われましたが、がんを正しくがんと診断していますので、「適切でない」と言うのは少し語弊があります。適切に診断したとしても、無症状の人を対象にした検診では一定の割合で過剰診断が生じてしまいます。

もちろん、患者さん全体としては検診をするメリットはあります。検診でがんが見つかった人の中には治療によって命が助かる人もいます。その一方で、少なからぬ人が過剰診断により、必要がなかった治療を受けたことが分かっています。

過剰診断はいわば、がん検診の「副作用」のようなものです。検診をやっていると必ず過剰診断や偽陽性がある程度は出てきます。しかし、それらの害よりも、がん死を減少させる利益のほうが上回るため、がん検診が公的に推奨されています。

検診したくなる医療者の視点 無下に断れない理由も

二宮 がんが見つかった以上、治療するしかないというお話でした。医師側から見ると過剰診断に対してどう対応すればいいと思われますか。

名取 正直に言うと、医師の間でも過剰診断をめぐる認識はまだまだ広まっていません。がんを早期に発見して早期に治療するのは、無条件によいことだと考える医師が多いと思います。

二宮 医師からしたら、病気が見つかった患者さんは治療するしかないということですね。

名取 進行度の低い前立腺がんや甲状腺がんは、治療をせずに経過観察されることもあります。しかし、多くの場合は、病気が見つかった後は治療のガイドラインに沿って治療するしかないんです。

そのため、大事なのは「むやみにがん検診をしてはいけない」ということ。がん検診というのは、意外と害の大きな介入であることを知ってもらいたいです。もちろん、推奨されているがん検診は受けてもいいですが、推奨されていない検診は、利益より害が大きい恐れもあります。何か特別な理由がない限り、やってはいけないものなんです。

ただし、医師の視点からすると、検査というのはしたくなるもの。東日本大震災後の福島県の場合、被曝による甲状腺がんが激増したらどうしよう、という懸念が広まりました。そうした状況では、検診をしたくなる気持ちも分かります。

また、一般の臨床の現場でも検診してほしいという患者さんを無下にできない事情があります。たとえば「何の症状もないが、すい臓がんが心配だ」という患者さんが来たとします。すい臓がん検診は国際的にも非推奨で、無症状の人にはやってはならないんです。しかし、「あなたは無症状なので検診はできません」と断った後、もしその患者さんがすい臓がんを発症したら、とんでもない責任問題になってしまいますね。

二宮 たしかにそうですよね……。

名取 そうなると、医師側も保身という観点から「やりましょう」となってしまう。断りにくいところがあるんです。そして、検診でがんが見つかると、結果的に治療することになります。

それから、あまり言いたくはないんですが、自費診療で検診をガンガンやっている病院もあります。検診は儲かる側面もあるんですよね……(苦笑)。

二宮 特にがんの検診に関しては、そういう病院のことは見聞きしますね。

名取 検診を受ける患者さんからは、どちらにせよ感謝されるんです。検診を受けさせてくれて、過剰診断であろうがなかろうが、小さいうちにがんが見つかって早く治療してもらえて治った、という認識ですから。

二宮 たとえ、がんが見つからなかったら見つからなかったで「安心感を得られた」となりますから、患者さんからしたら検診はメリットしかないように思える。気持ちとしては非常に分かります。

最もコスパがいいのは「規定の年齢になって検診を受ける」こと。自覚症状がない限り気にしない

二宮 もし、仮に自覚症状が出た場合はどうすればいいですか。

名取 自覚症状が出た場合は、もう検診の対象ではなくなります。がん検診は自覚症状がない人が受けるものなんです。

自覚症状が出た場合、保険診療で症状に応じた診察・検査を受けましょう。たとえば、胃の当りに違和感があるからといって、胃がんとは限りません。医師が診察をし、必要があるなら胃の検査もするでしょう。その他の病気の可能性も考えて、適切な診療をすることになります。

二宮 分かりました。自覚症状が出た場合は「検診」を待つのではなく、「医師の診察」を受けます。

一方、特に自覚症状がない人は、厚生労働省が定めた規定の年齢に達していない限り、過剰に不安を抱えなくていい、ということですね。該当の年齢になれば定期的に受ければいいのであって、たとえば、40歳以上に推奨されているがんについて、30代から気を病まなくていいと。

名取 そういうことです。公的ながん検診は、だいたい自治体から補助金が出ていまして、安価で受けられます。それだけを受け、他は特に自覚症状がない限りは気にしないことが、精神的にも金銭的にも最もコストパフォーマンスが高いと思います。

やり始めたらキリがない「がんの不確実性」

二宮 患者さんの中には、医師が「検査すること自体、こういう不利益を被る可能性がありますよ」ときちんと説明してもなお、「それでもいいから…」と食い下がらない人がいると思います。そうした場合、医療者はどうすべきだと思いますか。

名取 その場合、私なら検査をします。なぜなら、デメリットを説明しても「それでもしたい」ということは、心にそれくらいの不安があるわけですよね。その不安をほったらかしにするくらいなら、検査をして安心させてあげるのは、それはそれで患者さんの利益ですから。そうした諸々の利害を比較考量し、「不安を解消する」という利益が上回ったなら、検査に踏み切ります。

もちろん、先週CTを撮ったばかりなのに「今週も撮ってほしい」みたいな人は、さすがに断りますが(笑)。常識的な範囲内ならば、「不安の解消」というのは検査する十分な理由になりうると思います。

しかし、いざ検査をやろうと思い始めると、きりがないんです。今年は大丈夫だったとしても、来年はどうだろう……とか。胃は大丈夫だった、さて肺はどうだろう? 子宮は? 胆のうは?……と、一年ごとに体中を診てもらっていたら際限がなくなってしまいます。

コストパフォーマンスの話をしましたが、保険診療外で全身のがん検診をやる場合、こんなに費用がかかります。厚生労働省は、胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・子宮頸がん、の5つのがんに対して、それぞれ対象年齢・性別の方にがん検診を受けることを推奨しています。

がん種 自費診療(自分の意思)(※1) 保険診療(※2) がん検診の対象年齢(※3)
胃がん 10,000円〜20,000円程度 3,000円〜5,000円程度 50歳以上を対象(2年に1回)
肺がん 10,000円〜20,000円程度 3,000円〜5,000円程度 40歳以上を対象(1年に1回)
大腸がん 数千円〜30,000円程度 1,000円〜7,000円程度 40歳以上を対象(1年に1回)
乳がん 10,000円〜20,000円程度 3,000円〜5,000円程度 40歳以上の女性を対象(2年に1回)
子宮頸がん 数千円〜10,000円程度 1,000円〜3,000円程度 20歳以上の女性を対象(2年に1回)
甲状腺がん 20,000円〜30,000円程度 4,000円〜7,000円程度 推奨なし
膵臓がん 20,000円〜30,000円程度 4,000円〜7,000円程度 推奨なし
表は、厚生労働省の情報を元に弊社にて作成
(※1)金額は病院・検査内容によって異なります。
(※2)金額は病院・検査内容と保険負担割合によって異なります。
(※3)対象の場合、地方自治体ごとに無料や数百円程度になる等の制度があります。お住まいの地域等の条件によって異なりますのでご自身でお調べください。

適切に検診を受けていたとしても、運が悪いと進行がんになってしまうかもしれない。また、場合によっては、最善を尽くしたとしても望む結果にならないかもしれない。そうした病気の不確実性について、ある程度肝に銘じていたとしたら、結果的に生活の質は高まると思います。

二宮 反対に、検診の結果、がんと診断され、「自分は過剰診断だったんじゃないか」と思う患者さんもいるかと思います。その際は、どんな考え方をすればいいですか。

名取 そういう後悔は、結局のところ、自分が「選択肢を誤った」という気持ちが背景にあると思うんです。

もちろん、過剰診断の可能性は捨てきれませんが、がんと診断された時点で治療する以外に選択肢はないんです。特に、乳がんの場合は治療することがスタンダードです。経過観察することは、ほとんどありません。

ですから、診断を受けた時点で最善な選択をしたと思うことが一番です。過剰診断かもしれないけど、がんが運良く見つかったのかもしれない。病気には不確実性がある。そんな風に受け入れたほうが、心の安寧につながると思います。

がん検診の「副作用」への理解が広まらない理由。ワクチンとの違い

二宮 自費でもいいから検診したい、という患者さんを容認する医療者側について、先ほど保身や利益優先という理由のご説明がありました。それ以外で検診を断らない理由はありますか。

名取 多くは「患者さんの命を助けたい」という動機があるのでしょう。ただ、残念なことに、そもそも過剰診療の問題自体を認識していない医療者がいる場合もあります。

たとえば、上部消化管内視鏡検査を受ける際、のどが苦しかったり、のどを傷つけてしまったり、検査に伴う合併症が起きる可能性があることは分かっているんです。

一方、たとえば、甲状腺のエコー検査自体は、首筋に当てるだけで痛くもなんともないし無害です。「無害なら、どんどんやればいいじゃないか」という感覚の医師はたくさんいます。

二宮 がん検診については、医師から患者さんに適切な説明がなされることが、当面の目指すべきゴールだということですね。

名取 そうなんです。現状、検診の害については、本当に説明が足りなさすぎると思っています。「公的に推奨されているがん検診はこの年齢からです」と一応は説明されていますが、「なぜその年齢からなのか」という理由がきちんと説明されていない。それ以前の年齢で受けることで生じる恐れのある害については、ぼんやりさせたままなんです。

二宮 その説明がなされないのはなぜでしょうか。

名取 「問題とされることがない」からでしょう。

ワクチンを例にあげてみます。ワクチンの場合は、その害をかなり細かいところまで説明するんです。新型コロナウイルスのワクチンについても、「発症予防効果」があることは分かっていますが、わざわざ「感染予防効果はまだ証明されていません」みたいなことまで明記する。私などは「その説明は必要?」なんて思うのですが、なぜワクチンがそこまで、くどいほど事細かに述べるかと言うと、過去に問題とされたことがあるからです。

二宮 なるほど。

名取 ワクチンの副作用で薬害が生じ、大きな社会問題になった過去があります。ワクチンの副作用について、十分な説明は必要です。ですが、現状では、患者さんの意志決定を支援するためではなく、「後で問題になったときに責任を追及されないこと」が目的になっている面があります。患者さんに同意書まで書かせていますよね。

一方で、がん検診はどうか。これまで根拠に乏しいがん検診によって害を受けた人が山程いますが、その人たちは自分が害を受けたことを認識できていないんです。そのため問題になっておらず、訴訟も起きていない。だから、がん検診については事前に説明があまりされないし、状況は改善されないんです。

二宮 その結果、がんが見つかるメリットだけがもてはやされて、患者さん側も「がん検診はいいものだ」という認識になってしまう、ということですね。

そのような社会全体の検診に対する雰囲気を変えていくのは、なかなか大変です。どうすればいいと思いますか。

名取 たとえば、海外の公的機関における乳がんの事例ですが、検診について図表にして説明しています。

50歳の女性1万人が10年間マンモグラフィーを受けたとき、偽陽性が6,000人くらい出る。302人が乳がんと診断され、そのうち検診のおかげで乳がん死を避けられた人は10人だが、一方で過剰診断が57人、検診を受けても死亡する人が62人いる。このような数字を、検診の利益と同時に害の程度が一目で分かるようにグラフィックにして見せています。

https://sites.jamanetwork.com/breastcancerscreening/

各国がそのようにがん検診について「たくさんの人が検診を受けても、検診のおかげで助かる人は一握りで、薄く広い害があります」ということを視覚化し、説明しています。こういう試みを日本もやるべきですが、なかなか動いてくれません。

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執筆:今田祐介/編集:仁田坂淳史(ZINE)
編集後記(二宮):
わたしは「がん検診の大切さ」に目を向けることが多くありました。しかし、がん検診はメリットはよく説明されても、リスクはなかなか伝えられていないのが現状です。今後は、患者として主治医の方針に従った治療と、厚生労働省の定めに応じた検診を受けていこうと思います。次回はさらなる問題「ポピュラリティパラドクス」について伺います。

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