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オンラインがん相談サービス CancerWith

がん治療・生活の不安を専門家(看護師、社労士、キャリアカウンセラー)に相談できます。

がん相談をオンラインで、誰にでもかんたんに——『最高のがん治療』著者 腫瘍内科医 勝俣範之 × CancerWith鼎談

オンラインがん相談サービス CancerWithを運営する株式会社ZINEは、がん相談体制をより充実させるため、このたび勝俣範之氏を顧問に迎え入れました。腫瘍内科の専門医である勝俣氏と、ミッションに掲げる「がんにかかわるすべての人の本質的な悩みに寄り添い、自分らしく生きる世界をつくる」ための、がん相談支援体制を確立します。

オンラインがん相談サービス CancerWith

腫瘍内科医 勝俣範之氏がオンラインがん相談サービスCancerWithの顧問に就任
腫瘍内科医 勝俣範之氏がオンラインがん相談サービスCancerWithの顧問に就任

勝俣範之氏は、科学的根拠にもとづいたいちばん正しいがんの本として2020年4月に発売された『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』共著者であり、日本医科大学武蔵小杉病院 教授として現在も積極的に臨床現場に立ちがん患者さんの声を聞き、治療に取り組まれています。

「最高のがん治療」とは何か。勝俣氏監修のもと、より信頼ある「最高のがん相談」を目指すため、CancerWithは何をしなければならないのか。お話を伺います。

【目次】
オンラインがん相談サービスCancerWithの顧問に勝俣範之氏が就任
最高のがん治療とは、公的医療保険が適用される標準治療
理想のがん治療への向き合い方
最高のがん相談を目指して

オンラインがん相談サービスCancerWithの顧問に勝俣範之氏が就任

勝俣範之(以下、勝俣) CancerWithの事業を拝見した時、がん患者さんを取り巻く将来に向けたビジョンを掲げ、大変真剣に取り組んでいらっしゃる印象を受けました。

現在、患者さんの周りには怪しげな医療も大変多く、情報の取捨選択が容易ではありません。たとえば、エビデンスに乏しく怪しい自由診療であるにも関わらず、とあるがん保険の付帯サービスとして出回り始めているものもいくつかあります。そこでは自由診療を売り込むための前段階で「無料相談」を行っていることが多々あります。保険の付帯サービスだからと利用すると、無料相談の末、最終的に怪しげな自由診療に勧誘されてしまう。

CancerWithはがん患者さんがどなたでも無料で利用可能な、信頼できるオンラインがん相談サービスです。病院以外の選択肢としてぜひ多くの方に利用してほしいと考えています。

勝俣範之先生
勝俣範之
日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授、部長、外来化学療法室 室長

富山医科薬科大学医学部卒業後、徳洲会病院にて研修を開始。鹿児島では離島医療研修も経験。1992年より国立がんセンター中央病院内科レジデントに。スーパーローテート制度がない当時、自ら希望し内科各科を研修。血液腫瘍、骨髄移植、婦人科化学療法にも従事した。1997年国立がんセンター中央病院内科スタッフに。2004年ハーバード大学生物統計学教室に短期留学、ダナファーバーがん研究所、ECOGデータセンターで研修を受ける。その後、国立がんセンター医長を経て、2011年10月より、日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科教授として赴任。腫瘍内科を立ち上げる。2021年6月より、株式会社ZINE / CancerWith 顧問。専門領域は、内科腫瘍学全般、化学療法の支持療法、原発不明がん、婦人科がん、乳がん、臨床試験、EBM、がん患者とのコミュニケーション、がんサバイバー支援など。著書に『世界中の医学研究を徹底的に比較してわかった最高のがん治療』など多数。

日本内科学会認定医 / 日本乳癌学会認定医 / 日本臨床腫瘍学会指導医 / 日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医 / 日本癌治療学会がん治療認定医 / 日本サイコオンコロジー学会コミュニケーション技能訓練ファシリテーター

日本医科大学武蔵小杉病院

最高のがん治療とは、公的医療保険が適用される標準治療

勝俣がん罹患の大きな要因は外的要因、遺伝的要因、偶発的要因が挙げられます。

  • 外的要因(環境要因)……タバコ・アルコール・ウイルスなど
  • 遺伝的要因……親から引き継ぐもの
  • 偶発的要因……偶然起こるもの

このなかで最も多いのは、偶発的要因で、全体の3分の2を占めます。一般的にがんの原因は遺伝や外的要因(環境要因)と言われますが、最も多いのは、偶発的要因なのです。タバコも吸わず、食生活にもかなり気を付けていたのに、「どうして私はがんになったのだろう?」と思われる方もたくさんいらっしゃいます。これは、外的要因(環境要因)よりも偶発的要因が多いからなんです。
日本では「がん家系」という言葉をよく耳にします。しかし、遺伝的要因で起こるがんは女性の乳がん・卵巣がんの一部(BRCA変異)や、家族性大腸がんなどの大腸がんの一部で見られるほかは非常に少なく、偶然起こるがんのほうが多いのです。

がんは誰の身にも起こることですので、誰が悪いというわけではありません。国の事業として、社会保障制度、国民皆保険のもと公平に対処される必要があります。最高のがん治療が不平等に行き渡ってしまうのではなく、全国民が最良の治療を受けられるべきです。

「最高のがん治療」とは、公的医療保険が適用される治療法、標準治療のことを指します。これが最も効果が期待できる治療法です。保険適用になっていない先進療法やテレビで取り上げられるような民間療法を私は患者さんにおすすめしません。

医師は患者さんに対して、最善で最高の医療をしなければなりません。しかし、「最善で最高の医療」と一括りにしても、そこにはさまざまな選択肢があり、病院によっても方針が多少異なります。医師自身の考えによっても違います。

がんを起因とした情報の非対称性は根深い

勝俣自由診療、と聞くと、一般的に皆様になじみ深いのは歯医者さん。そこで行われる金歯やセラミックの詰め物・かぶせ物をイメージする方もいらっしゃるでしょう。なんとなく自由診療のほうが良いもののように感じてしまいます。しかしこれは大きな誤解です。

がんの標準治療は長い歴史の積み重ね。エビデンスの上に成立した確かな治療方法ですので、惑わされないようにしてほしいと考えています。

仁田坂淳史(以下、仁田坂)株式会社ZINEはメディアの受託制作を続けていくなかでがん患者さんの抱える深いペインを知り、オンラインがん相談サービスCancerWithの立ち上げへとつながった経緯があります。メディアからはじまった企業としては、患者さんの知識や状況などによって、得られる情報に差があってはならないと考えています。がんを起因とした情報の非対称性は根深く、聡明でリテラシーの高い方ががんに罹患した後、エビデンスに乏しい医療を選択してしまう、といった例をたくさん見てきました。ぜひ標準治療こそが最高の治療法であると、CancerWithを通じて啓蒙していきたいです。

仁田坂淳史
仁田坂淳史
CancerWithを運営する株式会社ZINEの代表。祖母の「がんが治る水をつくる機械」(80万円)購入や家族のがん罹患をきっかけに、がんを起因とする情報の非対称性を解決するためCancerWithを立ち上げた。

標準治療には複数の選択肢があり、患者さんやがん種により異なることも

勝俣医師は科学的エビデンス・医学的根拠にもとづき判断を行います。医学的根拠をまとめた最も顕著なものに「診療ガイドライン」があります。ガイドラインと聞くとひとつしかないような印象を得ますが、マニュアルであって、画一的な医療をもたらすものではありません。

よく誤解されますが、「標準治療」と言っても、患者さんやがん種によってさまざまな選択肢があり、択一的に決まりません。たとえば同じ手術でも、どこまで切るのか、完全に決まっているがんもあれば、定まっておらず複数の選択肢がある場合もあります。

また、ガイドラインは非常に難解で学会が1~2年といったスパンで変更しており、医療者ではない患者さんが見てもわからないことが多いもの。そのなかにはいろんな答えがあり、診療ガイドラインに従えば最善の治療が患者さんに提供できる、というものでもありません。

医師を含めた私ども医療者は、患者さんの話を聞き、個人の希望や状況の違いを押さえた上で、この患者さんにできることはないか、寄り添い考える。そのなかから一番適切な治療はこれではないかと示す。患者さんとうまくコミュニケーションを取りながら、一緒に考えて結論を出すのをサポートする存在なのです。

二宮みさき(以下、二宮)私も選択肢が無数にありました。たとえば妊孕性を温存するのかしないのか、乳房を全摘するのか部分切除とするのか。さまざまな場面で選択を迫られることがありました。

二宮みさき
二宮みさき
CancerWithを運営する株式会社ZINEのディレクター。2015年、28歳で乳がんに罹患。ライフワークとして闘病ブログの執筆、メディアへの出演など。

腫瘍内科医は少なく、患者への説明よりも治療が優先されてしまう

二宮日々、勝俣先生をはじめ、日本中の医師がさまざまなケースの患者さんを診ていらっしゃいます。普段医師の方はどのような気持ちで治療に取り組んでいるのでしょうか。

勝俣臨床現場は毎日とても忙しいです。なかには画一的に患者さんに向き合ってしまうドクターもいます。たとえば、乳がん患者の方は近年増加傾向にある(参考文献【1】)なか、専門医が比例して増加しているか、というとそうでもありません。

日本では2006年にはじめて腫瘍内科医が生まれました。腫瘍内科とは、臓器別に治療を行うのではなく、全身を診てかつ化学療法に長けた診療科のことです。私のような腫瘍内科医や乳腺外科医は少なく、患者数に比べてまだ医師数が足りていません。たとえば日本よりも約30年早く腫瘍内科ができたアメリカには約18,000人もの専門医がいます。一方、日本では約1,400人(2021年)。アメリカと比べると、日本に腫瘍内科医は12分の1しかいません。

実際のところ、専門医の数が少ないと患者さんに潤沢な時間をかけて説明する暇もなく、ずっと治療に取り組んでいる現状があります。ある乳腺外科の先生は1日に100人もの患者さんを診ているそうです。通常の診療時間では診療が終わらず、夜10時まで診療を続ける大学病院の医師もいます。その結果、巷で言われる「3時間​待ち、3分診療」の状況が生まれてしまう可能性があります。

腫瘍内科医が扱う化学療法・抗がん剤は、医師が処方する薬のなかで最も扱いの難しい劇薬だと言われています。処方を間違うと患者さんの生命に関わる、責任の重い仕事です。そのため専門医のなり手もなかなか増えていかないのだと考えています。

仁田坂何よりも患者さんの生命が優先されるべきですし、医師が治療の責任者である以上、治療が最優先されるのは仕方ないことだと考えています。CancerWithはがん患者さんに寄り添い、医師のカバーしきれない治療以外の相談に特に力を入れています。

どの病院でがん治療を受けるのか。日本は比較検討しにくい

二宮最高のがん治療は標準治療という前提のもと、私のようながん患者は「だったらどの病院で標準治療を受ければ良いの?」と疑問を持つケースも多いと思います。

勝俣「年間手術件数」で病院を選ぶという患者さんもいるでしょう。しかし、手術数の多い病院が良い病院か、と言われると、必ずしもそうではありません。病院間の格差や医師の経験による格差があります。

日本で病院を比較・検討しにくい理由は、指標が公表されていないからです。医療の質を定量的に評価し、病院を比較検討しやすいようにする、クリニカルインディケーター(Clinical Indicator、臨床指標)という仕組みがアメリカにはありますが、日本には公表する仕組みがありません。アメリカでは病院ごとにすべて公表され、がん医療の質を担保できるため、患者さんが指標をもとに選択できる仕組みがあります。

患者さんがどの病院でがん治療を受ければ良いのか、非常に比較検討しにくい。そのため、がん診療連携拠点病院(参考:がん情報サービス)のなかから選択するしかない、というのが現状だと考えています。

ただ、がん診療連携拠点病院と言えども、一定の基準のもと、クリニカルインディケーターを評価されたわけではない、ということに注意しなければなりません。自己申請して通れば拠点病院となれます(厚生労働省)し、格差が生じてしまうのもやむを得ません。

どの病院が良いか迷った際は、ぜひCancerWithで相談していただきたいですね。

オンラインがん相談サービス CancerWith

仁田坂患者さんと一緒に、さまざまながん診療連携拠点病院にあるがん相談支援センター・がん相談支援室を訪れたことがあります。同じ相談をしても、各病院で言われることの差に驚きました。がん相談は属人化が進み、ナレッジベースがありません。インターネットとテクノロジーの力を使ってがん相談にイノベーションをもたらしたい、と思ったことがCancerWith立ち上げのきっかけになっています。

理想のがん治療への向き合い方

二宮CancerWithでは先日、タイムライン機能をリリースしました。

悩みは治療だけではありません。特にAYA世代から壮年期の患者さんは、結婚・育児・就職などのライフイベントと治療が密に関わります。
その一方で、治療やライフイベントを記録する仕組みはなく、患者さん自身が現在何に悩み、将来どのような選択ができるのか考えることさえ難しいのが現状です。
タイムライン機能でオンラインがん相談を一歩前に

タイムライン機能はがん治療への向き合い方を見つめ直すきっかけになると考えています。

がん治療は不確実性が高い。理想は患者・医療者が共に考えること

仁田坂私たちは、タイムライン機能や今後の機能開発を通し、患者さんが将来の希望を気軽に主張できる社会を目指したいです。医師はがん治療の責任者だと考えているのですが、実際はどうでしょうか。患者さんの希望は治療に反映されているのでしょうか。

勝俣本来は医師が治療の面は責任を持ち、患者さんの希望を汲んだ上で意思決定をサポートできるのが理想型ですが、今はそうなっていません。

インフォームドコンセント(Informed Consent、IC)という考え方があります。患者さんに説明し納得していただき、医療者の側も患者さんの状況や希望を理解した上で合意形成を行うプロセスのことです。

本来であれば医師は、患者さんの個々の希望に寄り添い、エビデンスにもとづきアドバイスをし、患者さんの意思決定をサポートする立場です。そういう意味においては、治療面の責任者は医師と言えるかもしれません。しかし、臨床現場では、実際には患者さんに責任を押しつけるようなインフォームドコンセントを行う医師もいます。医療責任逃れなどさまざまな理由が考えられますが、本来あるべき、データをすべて示した上で患者さんと合意形成に至るインフォームドコンセントとは大きくかけ離れています。

そういう意味では、患者さん・医師が一緒に考えるのがベスト。それが理想のがん治療への向き合い方だと思います。

患者のスキル差が理由で、受けられる治療に差異が生じてはならない

勝俣医療はまだ完全ではなく、がん医療においてもまだまだわからない領域があります。そうした不確実性の高いものに取り組む際には、シェアードディシジョンメイキング(Shared Decision Making、SDM)にもとづく合意形成を行うことが多いです。

これは不確実性が高く、生命へのリスクが高い可能性がある際に取られる選択肢です。しかし、先ほど申しましたように医師は忙しく余裕がないため、十分に合意形成の時間が取れるかというと難しい。一日に100人もの患者さんを診るような状況ではその余裕はないでしょう。

二宮私の場合もまさにそうでした。「次の外来までに乳房を温存するか全摘するか自分で考えてきて下さい」と言われ、困惑したのを思い出します。

仁田坂欧米に比べると日本人は個人の意見を述べることが苦手で、ディスカッションの経験が乏しいとよく言われます。相談する患者さんのスキルはがん相談や、シェアードディシジョンメイキングに影響してしまうのでしょうか。

勝俣患者さん側の問題ではないと思います。そもそも欧米も同じ状況だと考えています。ディスカッションスキルの差が理由で受けられる治療に差異が生じてはなりません。患者さんは専門家ではないので、意思決定に迷うことも、わからないこともあって当然です。患者さんの希望や個々の状況に寄り添えない医療者に問題があると言えます

仁田坂患者の相談スキルではなく、医療の問題と言い切っていただけて、患者側としては安心して相談ができます。多くの患者さんが「こんなことを相談して良いのかわからない」と誰にも相談できずに抱え込んでしまっているなか、CancerWithでは治療のことも生活のことも相談していただけます。自分らしく生きていく上で、悩みに区別はありません。

勝俣医療はすぐに変えられないと思います。では今できることとして、患者さん側でできる工夫もあります。たとえば、外来や入院時の医師とのコミュニケーションです。医師に勇気を持って相談するのは有効なひとつの手段でしょう。「時間をとってもらえませんか?」とお願いしてみても良いと思います。他にも、医師説明の際に録音を許可してもらうことが有効です。責任の所在を問おうとしているように見られてしまわないかと躊躇する患者さんが多いですが、断られることはないはずです。もし録音NGという医師がいたら、それはあまり良い医者じゃないと思います。

相談もせずに諦めている人も多いなか、まずはCancerWithや主治医に相談するのも大変有効です。患者さん側からももっと気軽に相談していただきたいです。

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インターネットのがん情報は嘘を見抜くのが難しい

勝俣患者さんのなかには、自分の思い込みで治療を辞めてしまう方がいます。他にも、インターネットの情報や嘘が書かれた本を信じてしまう方は非常に多いです。たとえば、がんになったからといって仕事を辞めてしまう方は非常に多く、がんの診断を受けた4割弱の方が誰にも相談せずに離職しています(2015~2018年、国立がん研究センターなど)。

他にも食事の面は非常に誤解が多く、以下のような情報がインターネットに数多く掲載されています。

  • 玄米と野菜だけ取ればがんが治る
  • 糖質を食べるとがんが悪化する
  • 肉を食べるとがんが悪化する

これらはすべてエビデンスにもとづかない嘘情報と言い切って良いです。患者さん自身がエビデンスと論理的整合性を取り、インターネットのがん情報にある嘘を見抜くのはとても難しいため、注意が必要です。

二宮勝俣先生にそう言い切っていただけると非常に気持ちいいです。CancerWithでもこうした啓蒙活動を行っていきたいです。

最高のがん相談を目指して

二宮CancerWithでは治療の悩みだけでなく、就職・復職などキャリアの悩みも相談できます。たとえばお金の相談はFP、障害年金に関することは社労士(社会保険労務士)、生活上のケアであれば看護師など、適切な役割の職種が患者さんに寄り添い一緒に解決方法を考えます。

しかし、AYA世代(15~39歳)のがん患者さんのほとんどが満足に相談できていません。「就職・復職」の相談を行った患者さんは、AYA世代全体の約6割に過ぎず、そのほとんどがプロフェッショナルではない方に相談してしまっています(参考文献【2】)。医師がキャリアカウンセラーのような役割を兼ねてしまっているような状態です。このような状況のなか、患者さんの多くはなぜ、医師に相談してしまうのでしょうか。

勝俣病気に関することであれば当然医師に相談しますよね。もちろん潤沢なリソースがあればすべての患者さんに満足な時間をかけられますが、すべての医師がそうではありません。私は現在、多くて1日に30人程度の患者さんを診ています。しかし100人の患者さんを診る医師ではそうもいきません。

医師偏重の社会に提起するCancerWithのスタンスは、「アドバイザーに医師を入れない」こと

勝俣チーム医療という概念ができて久しいです。多職種連携して患者さんの課題を解決しなければなりません。医師は毎日忙しく時間がないなか、それでもなかなかチームでの患者さんのサポートが十分ではないのはなぜか。

ひとつは医師以外のコメディカル、看護師や薬剤師が、どうしても医師に遠慮してしまうことが挙げられます。本来であれば患者さんのサポートのため、医師に意見を述べ、医師を否定することがあっても良いのです。

もうひとつは、患者さんが医師のほうばかりを見てしまう、医師偏重の傾向も影響していると考えます。

さらに多くの主治医が患者さんとコミュニケーションできていないことも課題です。いろんな人とチーム医療を提供するのが最適ですが、病院によっては機能していないことが多いです。たとえば看護師やMSW(医療ソーシャルワーカー)の方などと多職種連携して患者さんの相談に乗ることを医療者側が目指さなければなりません。

CancerWithのような病院以外のサポートが非常に大事です。患者さんには、主治医じゃないから、医師じゃないからと思わず、各分野の専門アドバイザーを気軽に頼っていただきたいと考えています。

仁田坂医師の意見を偏重して聞いてしまう、患者さんの持つ「医師神話」は私たちも普段から感じます。今後変わるかもしれませんが、現時点でCancerWithは医師をアドバイザーに入れず、医師に直接相談をする機会を提供してはいません。原則として患者さんが受けられる最善の選択肢は標準治療で、標準治療が医師により大きく異なることは生じません。医師をアドバイザーに入れないことで、患者さんの主治医の方が責任を持って取り組んでいることにケチをつけたり、コンフリクトさせない。患者さんをより混乱させてしまうことを防いでいます。医師だけではカバーできない、看護師や社労士の方など多職種の持っている知見を患者さんに還元したいです。

「がん相談」は標準治療が整備されていない

二宮標準治療には診療ガイドラインがありますが、がん相談にはガイドラインが存在しないのでしょうか。

勝俣「食事はどうしたら良いのか」「アルコールを飲んでも良いのか」そうした相談は医師にも多く寄せられます。しかし、治療に比べてしまうと生活上の相談にガイドラインは一部あるものの、大部分が未整備で各分野整備が進んでいない、というのが現状です。

仁田坂あるMSWの方から聞いたのですが、MSW内でも持つ知見はばらばらで、提供できる相談レベルに大きな差があるそうです。同じ相談に対してもノウハウが属人化しており、答えられることに大きな格差があります。私ががん相談支援センター・がん相談支援室に行った際には、「ストーマ増設後の方のストーマ装具のかぶれをどう防ぐか」といった、具体的な話で特に差が顕著でした。そのような患者さんに多く向き合ってきた方はバッドノウハウながら、確かな知見をお持ちでした。

CancerWithでは現在、相談データベースの構築を進めています。過去の相談内容・返信内容を蓄積・分析し、治療・生活相談に関するナレッジベースを構築。今後のサービス改善につなげていこうという考え方です。

がん相談は、看護師だけでなく、MSW、薬剤師、非医療者では社労士など多職種連携が欠かせません。チームで患者さんの困難を和らげるのが私たちオンラインがん相談サービスの役目だと考えています。

「援助させていただく」姿勢を忘れない。がん相談の未来

仁田坂現在、がんの診断技術は、大腸などで画像診断が検出精度を上げているものもあります。将来的にがん相談をAIがサポートしてくれるような未来が来るのでしょうか。

勝俣すべてがAIでまかなえるか、というとそうではないと考えます。個々人の状況を鑑みて判断しなければなりませんし、何よりも大事なのは寄り添い方です。CancerWithのようなテクノロジー、つまり機械ですよね。機械がアドバイザーをサポートすることはできると思います。それによりアドバイスをはじめとした人間の負荷は軽減されるでしょう。

アドバイザーにとって本質的な仕事は、患者さんの気持ちに寄り添うこと。CancerWithが最高のがん相談相手となるために、患者さん一人一人を大切に、「援助させていただく」姿勢が大切です。

医療がカバーできない、本質的な患者さんとのコミュニケーションを、CancerWithのアドバイザーが担ってくれると期待しています。

オンラインがん相談サービス CancerWith

オンラインがん相談サービス「CancerWith」は、がん治療・生活の不安を専門家に相談できます。オンラインで24時間、匿名でも相談可能。あなたの話を聞かせてください。

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勝俣範之氏の顧問就任に関するプレスリリースはこちら

参考文献
【1】Katanoda K, Hori M, Matsuda T, Shibata A, Nishino Y, Hattori M, et al. An updated report on the trends in cancer incidence and mortality in Japan, 1958—2013. Jpn J Clin Oncol. 2015;45(4):390—401. [PMID:25637502]

【2】厚生労働省 厚生労働科学研究費補助金(がん対策推進総合研究事業)「総合的な思春期・若年成人(AYA)世代のがん対策のあり方に関する研究」(研究代表者:堀部敬三、研究分担者:小澤美和)平成29年度総括・分担研究報告書(2018)より引用