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女性がん患者の離婚率は男性の6倍。勝俣範之先生に聞く、乳がん治療を続ける心得と患者の家族ができること

勝俣範之先生に聞く、乳がん治療を続ける心得と患者の家族ができること

オンラインがん相談サービスCancerWithでは、ピンクリボン月間に合わせて「乳がん」をテーマにしたブログ記事を公開しています。今回は、CancerWithの顧問である腫瘍内科医の勝俣範之先生に「治療を長く続けるための心得」を伺いました。

勝俣範之先生

勝俣範之
日本医科大学 武蔵小杉病院 腫瘍内科 教授、部長、外来化学療法室 室長
株式会社ZINE / CancerWith 顧問

二宮みさき

二宮みさき
CancerWithを運営する株式会社ZINE 取締役COO
2015年に乳がんに罹患、現在もホルモン療法を継続中

長い治療に「やめたい」という気持ち 主治医に伝えるべき?

二宮みさき(以下、二宮)乳がんに罹患し、ホルモン療法をされる方も一定数います。私もそうですが、5年、10年と続く長い治療がだんだん嫌になってきて、「もうやめても良いんじゃないか」という考えが頭をよぎることがあります。そういう気持ちは素直に主治医に言っても良いものですか。

勝俣範之(以下、勝俣)もちろん聞いて良いです。長く続けることは大変なことです。かつては、ホルモン療法は2年と言われていました。

2年と5年の治療を比較しますと、5年の予後のほうが改善し、さらに5年より10年のほうが予後が改善することが分かっています。より長く続けるほうが、より再発を防ぎ、治療成績が上がっているエビデンスがあります。

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二宮 勝俣先生は、もし患者さんから「やめたい」という申し出を受けたらどういう対応をとられますか。

勝俣 まず、なぜやめたいと思うのか理由を聞きます。やめたくなる理由は、おそらくは副作用によるものかと思います。

原因が副作用なら、副作用を和らげるような治療法があります。タモキシフェンでは、ホットフラッシュや、更年期障害症状などの副作用があります。

ホットフラッシュなどの副作用に対応する薬もありますが、残念ながら国内では未承認です。更年期障害に対しては、漢方薬などを使うことがあります。ホルモン療法には何種類も治療薬があるので、場合によっては、薬の種類を替えることもできます。

ほかにも、副作用では精神的に不安定になることもありますし、ひどい場合はうつ病になることもあります。

また、タモキシフェンを使っている場合、子宮体がんになりやすくなる、というエビデンスもあります。そのため、使用している患者さんには年に一度は婦人科検診をすすめています。

二宮 では、患者さんから相談を受けても実際にやめることはあまりないということですね。

勝俣 そうですね。デメリットに比べるとホルモン療法はメリットが多いんです。ですので、なんとかやめたくならないよう、副作用が軽減するように処置します。

更年期症状は、不定愁訴(ふていしゅうそ)とも言いますが、例えば天気が悪い日や低気圧の際に調子が悪くなる、車酔いなどです。患者さんによっては「今日、雨降るな」と体調で分かるんだそうです。

二宮 分かります。私もそこまで敏感ではないですが、頭痛だと思ったら低気圧だったり、本当に些細な体調の変化で分かることがあります。

治療を長く続けるコツは「味方」を見つけること

二宮 何年も続く長い治療を諦めずにやりきる秘訣はありますか。

勝俣 一番の秘訣は、支えてくれる味方を作ることです。治療の辛さというのは、他人にはなかなか分かってもらえないもの。たとえ相手が家族であっても理解を得られるかは分かりません。実は、家族が一番分かってもらえないことだってある。一番身近にいて、分かってほしい家族に分かってもらえないからこそ、かえって辛くなるという人もいます。

二宮 言われてみればそうかも(笑)。病気になる前のことをよく知っているからこそ、病気になった後と比べてしまうのかもしれませんね。

勝俣 薬の副作用というのはなかなか表面化しにくいですし、おそらくご家族も体験したことがない。大変さを知る機会がないので、「家族にはそもそも分かってもらえない悩みなんだ」ということは、理解しておいても良いでしょう。

特に、乳がんは女性特有のがん。家族は、配偶者、夫であることが多いでしょう。その中には妻の気持ちの配慮に慣れていない人も少なくありません。細やかな気持ちを分かってもらえるかというと、そうでもない。乳房を失う悲しみを自分ごとのように汲み取り寄り添ってくれる配偶者はあまり多くありません。

一方で、興味深いデータもあります。女性ががんになるのと、男性ががんになるのでは、どちらの離婚率が高いと思いますか? 答えは女性なんです。女性ががんになったときのほうが、夫婦関係が壊れやすいんです。(女性ががんになった場合、男性ががんになった場合の6倍離婚率が増える 出典:Cancer. 2009 Nov 15;115(22):5237-42*1

2021年10月20日、勝俣先生のTweetでも大きな話題に

二宮 私の周囲の患者さんたちの様子を踏まえても、なんとなく想像できます。

勝俣 私自身、患者さんを多く診ていますと、男性ががんになると尽くす配偶者の女性が多いように思います。一方、女性ががんになった場合、配偶者の男性の対応ははっきりと2つに分かれてしまいます。すごく尽くすタイプと、無視に近い対応をとってしまうタイプです。後者は、怖くなって逃げたくなるんだと思います。そうした男性も少なくありません。

二宮 そういった場合どうすれば良いでしょう。乳がんの当事者である女性は自分のことでいっぱいいっぱいでしょうし、でも病気がもとで離婚したいというわけではないでしょうし……。

勝俣 配偶者にすべてを求めない、と割り切っても良いと思います。「分かってよ!」と激昂したり、無理強いをしてもなかなか上手くいきません。分かろうと思ってもなかなか理解できるものではないんです。

二宮 そうなってくると、やはり家族以外の「味方」を作ったほうが良いということになるわけですね。

勝俣 まず医療者が、一番良い味方になってくれると思います。主治医はもちろん、看護師さんも良いでしょう。特に、看護師さんは、乳がん認定看護師や、がん専門看護師が在籍する病院もあります。そういう方々は患者さんのことを非常によく分かっていますし、さまざまな対応方法も教えてくれるでしょう。

また、がん患者の「先輩」がたくさんいる患者会があります。特にいろいろな苦難を乗り越えてきた「スーパー患者」のような強者もいます。そういう人たちを頼りにし、話を聞いてみるのも良いでしょう。

ほかにも、病院や地域によってはピアサポートもあります。ピアサポートとは、がんの体験者が現在がんに罹患している人の話を聞いてくれる場で、場合によっては助言もしてくれます。そうした場で体験者の声を聞くだけでも安心感につながると思います。

誰かに直接相談しづらい方はCancerWithを使っていただくのも良いと思います。素晴らしいアドバイザーの方がいますので、その方々に相談しても良いでしょう。清水公一さんは日本一の社労士ですし、堀川明日香さんは患者さんに寄り添ったアドバイスをしていらっしゃいます。

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二宮 無理矢理近くにいる人を味方にするよりも、無理なく共感者を増やすほうが良いということですね。

勝俣 そういうことです。もちろん、近くにいる家族に理解してもらいたいところですが、「なんで分かってくれないの!」と責め立ててみても、夫婦喧嘩のきっかけになりますし、最悪離婚の原因になりかねません。

二宮 求めてしまうから、そこに温度差が生まれ、すれ違いが生じてしまうんですね。

勝俣 夫に分かってもらうのは無理だと思ったほうが良いかもしれません。

二宮 今日一番の学びです! 言われてみれば確かに、と思うところもあります。

勝俣 がん患者の心理は非常に難しいんです。特に、ホルモン剤を服用し、更年期障害が出ている患者さんの心理状態はグラグラふらつきやすいもの。まずはそれを自分自身で理解し、自分のことを受け止めてあげることも大切です。

がんになったときに思い出したい3つの「あ」

二宮 副作用や手術・後遺症などで、望んでいた生活や、やりたかった仕事を諦めてしまう人もいると思います。そうしたとき、どのような対処法がありますか。

勝俣 私は3つの「あ」の話をよくするようにしています。ある先生からの受け売りで、中国の古いことわざだそうです。がん患者さんによく当てはまると気づき、よく使わせてもらっています。

  • せらない
  • わてない
  • きらめない

まず、「あせらない」と「あわてない」こと。がんと診断されてしまうとどんな方でも多少は冷静さを失ってしまいます。たとえ医者自身が診断された場合であってもそうです。冷静さを失うと、怪しい情報にすがってしまう恐れもあります。がんと診断されたからといって、すぐにどうかなってしまうことはありません。時間はたっぷりあります。焦らず慌てず、上手く付き合っていくことが大事です。

3つ目の「あきらめない」こととは、治療を諦めない、という意味ではなく、自分の大切な人生を諦めない、と捉えてほしいです。がんになると、以前と比べてできないことが増えていき、かなり落ち込みます。でも、がんになったからといって人生すべてを諦めないでほしい。諦めずにできることを探すのが良い、とすすめています。

それから、自分を否定しないことも大事です。特に日本人は、がんになると自分のせいだと自己否定的になる人が多いです。がんの原因の3分の2は突然変異、偶然に起こるものなんです。なかなか、がんは防げるものではありません。いくら、健康に気を付けていて、食事や運動をしっかりしていたり、毎年検診していたとしても、突然がんが見つかってしまう方は多いのです。検診に行かなかったから、怠惰な食生活を送っていたから、と思わないこと。私からも、「あなたがダメな人間だからがんになったわけではないんです」ということは伝えるようにしています。

「がんばれ」「気の持ちよう」は禁句 周囲の人間ができること

二宮 患者さんの家族や友人、周囲の人間ができることはありますか。

勝俣 もちろんあります。家族・友人がやってはいけない行動、言ってはいけない言葉があるんです。

まず、おせっかいを焼くのはいけません。例えば、患者さんにエビデンスのないサプリメント、漢方薬をすすめてくる人がいます。もちろん良かれと思ってなのでしょうが、やめてほしいです。

言ってはいけない言葉の代表格に「がんばれ」があります。口をついて、つい出てしまう方もいるかもしれませんが、患者さんの負担になってしまいます。がんになっただけでも精神的にまいっていますし、患者さんはもうすでにがんばっているんです。それ以上「がんばれ」というのは酷な話ですよ。

ほかにも、「病は気から」「気の持ちようだ」「前向きになれ」といった類の言葉も禁句です。これらも言ってはいけません。

二宮 気持ちで治るなら治したいですよね。

勝俣 がんになってずっと前向きにいられる人なんかいないです。特に、日本人はこの類の根性論が大好きだと思いますが、やめてほしいです。

「がんばれ」と言いたいなら、「“一緒に”がんばりましょう」と言うべきです。それならまだありです。ただ、家族や友人は無理になにか声をかけようとしなくて良いとも思います。重要なのは寄り添う、そばにいることで、逃げずに寄り添ってあげてください。それだけで患者さんの力になります。

私は常々、患者さんには前向きじゃなくて良いと言っています。落ち込むときは落ち込んで良い。がんになって悲しくならない人などいません。悲しくなるのが普通です。また、落ち込んだ自分を否定する必要もない。患者さんの中には、「なんて自分は弱いんだろう」「なんで自分はがんばれないんだろう」と落ち込む人もいますが、そんなことで自分を責めたり否定したりしなくて良いです。

10月はピンクリボン月間。CancerWithでは乳がん患者さんを応援しています

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執筆:今田祐介/編集:仁田坂淳史(ZINE)

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